不動産相続登記の先例等

このページは、司法書士高島が備忘録とすることを目的に作成するものです。実際に登記手続をするにあたっては、実務の取扱いなどについて法務局で確認してください。

1.遺言による相続登記と相続を証する書面

遺言書の文中に「遺言者の所有する全財産を甲に相続させる」とあり、登記原因を相続として登記する場合に、登記原因証明情報(相続を証する書面)として添付する戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)は、被相続人の死亡した事実並びに甲が相続人であることが証明できる戸籍謄本等の添付で足りる(登研386号)。

(解説)
法律的に有効な遺言書があり、その遺言書に「相続させる」旨の文言がある場合には、相続分の指定または遺産分割方法の指定として、相続を原因とする所有権移転登記をします。この場合、法定相続人の全員が誰であるかを明らかにする必要はありません。

そこで、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本、および遺言により相続分の指定を受けた方が、相続の開始時において適法な相続人であることが証明できる戸籍謄本があれば、その他の戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本は不要なのです。

なお、相続の開始時において適法な相続人であることを証明するため、相続人の戸籍謄本等は、相続が開始した後に交付を受けたものであることが必要です。

2.自筆証書遺言への「不動産の表示」の記載について

遺言者が所有するマンションの一部屋を、遺言によって相続させようとする事例。

自筆証書遺言に「遺言者の所有する次の建物を甲に相続させる」とあるが、不動産の表示として、所在や家屋番号ではなく住民票上の住所が記載されている。

家屋番号と部屋番号が一致していないことに加え、敷地についての記載はなされていない。そのため、遺言書の記載により不動産を特定することはできない。この場合でも、遺言書により相続登記をすることが可能か。

(例)
登記簿謄本(登記事項証明書)記載の「不動産の表示」
所在  松戸市松戸1176番地の2
家屋番号  松戸1176番の2の15

遺言書の記載
千葉県松戸市松戸1176番地の2 亀井ビル306号室  →  家屋番号と部屋番号が不一致

(結果および解説)
このケースでは、被相続人の住所、および家屋番号が記載されている固定資産評価証明書をあわせて提出することで、登記が受理されました。

被相続人の住民票上の住所が、遺言により相続させようとした不動産の所在地にあることからも、自らが所有し居住している不動産を相続させようとの意図は明らかだと判断されたのでしょう。

そのため、被相続人が、本件マンションに住民票を置いたことがなかったとすれば、別の判断がなされた可能性もあります。

最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決において、次のような判断がされているのも参考になると思われます。

「遺言書には,遺贈の目的として単に「不動産」と記載され,その所在場所として遺言者の住所が記載されているが,遺言者はその住所地にある土地及び建物を所有していたなど判示の事実関係の下においては,所在場所の記載が住居表示であることなどをもって同遺言書の記載を建物のみを遺贈する旨の意思を表示したものと解することはできない。」

上記事例は実際に実務で取り扱ったものですが、個々のケースによっては別の判断がされることもあると思われます。また、登記が実行されたとしても、それにより遺言の有効性が認定されたとは限らないことにもご注意ください(平成24年2月21日記)。

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