特別代理人の選任(遺産分割協議、相続放棄)

相続人中に未成年者がいる場合、遺産分割協議や相続放棄申述をする際、その未成年者のために特別代理人の選任が必要なことがあります。

未成年者が財産に関する法律行為をするときには、親権者がその未成年者を代理しておこなうのが原則です。しかし、親権者と未成年者との間で利益が相反する(利益相反行為)場合には、親権者が法定代理人となることは認められません。

そこで、親権者に代わる代理人として、未成年者のために特別代理人を選任し、その特別代理人が未成年者を代理するのです。

特別代理人選任の手続きを司法書士に依頼すれば、申立書類の作成だけでなく家庭裁判所への申立ても代行します。さらに、その後の遺産分割協議書作成や、不動産相続登記に至るまでの一連の手続きを、当事務所へご依頼いただけます。

なお、後見人と被後見人の利益が相反する行為(利益相反行為)についての特別代理人選任の手続きも、このページ解説している未成年者の場合と同様です。

1.特別代理人選任の要否

1-1.相続放棄の場合

1-2.遺産分割協議の場合

2.特別代理人の選任手続

2-1.特別代理人選任申立の必要書類・費用

2-2.特別代理人選任申立書の書式・記入例

2-3.特別代理人候補者について

2-4.遺産分割協議の内容について

2-5.特別代理人選任審判書

1.特別代理人選任の要否

相続手続において、特別代理人の選任が必要になる法律行為には、相続放棄と遺産分割があります。親権者と、その親権に服する子が共同相続人である場合、親権者と子の利益が対立することがあるからです。具体的には、次のとおりです。

未成年者が相続放棄をする際、次の場合に特別代理人選任が必要となります。いずれのケースでも、相続放棄をした未成年者のみが不利益を被る(遺産を相続できない)おそれがあるからです。

  • 親権者と、その親権に服する未成年者とが共同相続人であって、未成年者のみが相続放棄申述をする場合(親権者が先に相続放棄をしている場合を除く)。
  • 複数の未成年者の親権者が、一部の未成年者のみを代理して相続放棄申述をする場合。

親権者と、その親権に服する未成年者とが共同相続人であって、親権者と未成年者がともに相続放棄をするのであれば、特別代理人の選任は不要だということです。この場合、親権者が未成年者を代理して相続放棄申述をします。

遺産分割協議においては、誰がどれだけの遺産を相続するかについて共同相続人間で利害の対立があります。

よって、親権者とその親権に服する子が共同相続人である場合、親権者がその子を代理して遺産分割協議を行えば利益相反行為となります。親が必ず子の利益のために行動するとは限らないからです。

そこで、親権者とその親権に服する子が共同相続人である場合、遺産分割協議を行うためには必ず特別代理人の選任が必要です。

また、その遺産分割協議において、親権者とその親権に服する二人の子が共同相続人であったとすれば、二人の子についてそれぞれ別々の特別代理人を選任する必要があります。

2.特別代理人の選任手続

特別代理人の選任申立ては、未成年者の住所地の家庭裁判所へ行います。

家庭裁判所へ特別代理人選任の申立をするのに、最低限必要な書類等は下記のとおりです。この他に、申立費用として未成年者一人につき800円分の収入印紙と、書類郵送のための郵便切手が必要です。

1.特別代理人選任申立書

2.未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)

3.親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本

4.特別代理人候補者の住民票

5.利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)

遺産分割協議書(案)には、不動産、銀行預金、株券、ゴルフ会員権、自動車などの遺産を誰がどのような割合で引き継ぐかを記載します。そして、その遺産の価値が分かるような資料の提出も求められることになると思われます。

銀行預金であれば残高証明書または通帳の写し(コピー)、不動産ならば登記簿謄本(登記事項証明書)と固定資産評価証明書などです。

特別代理人選任申立書の書式は下記の裁判所ホームページにあります。ただし、司法書士にご依頼いただけば、申立書の作成も全て当事務所でおこないますので事前準備は不要です。

特別代理人選任申立書(遺産分割協議)

申立書の「申立ての実情」の記入について

特別代理人選任申立書には、申立ての実情として、利益相反行為の内容とその詳細を書きます。個々の実情に応じて事実を記入することになりますが、通常は下記のような記入で十分だと思われます。

「被相続人亡○は、申立人の夫であり、未成年者はこの夫婦間の長男であるが、別添遺産分割協議書(案)のとおりの協議をするため。」

特別代理人になる人の資格にはとくに制限はなく、申立についての利益相反行為に利害関係の無い人であれば、子の親族であるかどうかも関係ありません。また、特別代理人は家庭裁判所が選任するものではありますが、現実には申立書に記載した「特別代理人候補者」がそのまま選ばれるケースがほとんどだと思われます。

遺産分割協議をするための特別代理人選任を求める場合には、家庭裁判所へ遺産分割協議書の案を提出しますが、その協議内容が未成年者に不利なものであれば特別代理人選任は認められないのが原則です。

したがって、特段の事情が無い限りは、未成年者がその法定相続分以上の財産を相続する協議内容となるのが通常でしょう。たとえば、法定相続人が被相続人の妻と子の2人であったとすれば、最低でも子が遺産の半分を相続するものとしなければならないのです。

未成年の子供が遺産の半分を相続するというのは、一般的な感覚からすればおかしいようにも思えます。しかし、子の利益を守るとの観点からすれば、家庭裁判所がそのような判断をするのも仕方の無いところではあります。

特別代理人選任の審判がなされたら、特別代理人選任審判書が交付されます。土地や建物の不動産相続登記や、その他の遺産相続手続きをするには、この特別代理人選任審判書が必要添付書類となります。

特別代理人選任審判書の例