未成年者は財産に関する法律行為を自分自身で行うことができないので、未成年者自身が遺産分割協議に参加することはできません。そこで、遺産分割協議をするにあたって、相続人の中に未成年者がいる場合には、親権者(父母)が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加するのが原則です

しかし、親権者も未成年者とともに相続人となる場合には、親権者と子との間で利益相反が生じます。たとえば、夫婦と子供が2人の4人家族で、夫について相続が開始したとします。このときの相続人は妻および2人の子の合計3人ですから、遺産分割協議はこの3人により行うことになります。

しかし、このケースで子が未成年者だったとすると、親権者である母が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加するとなれば、遺産分割協議への参加者は母一人だということになります。そうであれば、夫の遺産の分割について、妻が一人で自由に決めてしまえることになります。

通常は、母は子の利益を考えて行動するはずですから、それでも問題ないと思われますが、必ずしもそうだとは限りません。母が全ての遺産を独占して子たちには何も与えないということもあり得ます。そこで、未成年者とその親権者との間で利益相反が生じるときには、家庭裁判所で、その未成年者のために特別代理人を選任してもらう必要があるのです。

特別代理人は、未成年者の利益のために行動することが求められます。特別代理人が未成年者に代わって、他の相続人との間で遺産分割協議を行うことにより、未成年者が不利になることを避けようとするのです。

なお、特別代理人に選任される人の資格についてはとくに制限はありませんが、通常は、特別代理人選任の申立人である親権者が推薦した人が選ばれています。そのため、未成年者の、祖父母や、伯父(叔父)、伯母(叔母)が特別代理人になることが多いと思われます。

そのため、親権者が選んだ人が特別代理人になるのだから、結局は、親権者の思い通りに事が進んでしまうのに変わりは無いとの批判があるところです。しかし、特別代理人の選任申立をする際には、家庭裁判所に遺産分割協議書(案)も提出します。

そして、家庭裁判所は、未成年者が不利になるような遺産分割協議書(案)の場合には、特別代理人の選任を認めません。したがって、特別代理人がすることといえば、すでに内容が決まっている遺産分割協議書に署名押印をするだけなのが通常でしょう。