遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書は相続人間での合意内容を明確にするために作成するものですが、不動産の相続登記、銀行預金の払い戻し、自動車の名義変更手続きなどをするためにも必要となります。
遺産分割協議書に不備があると、相続人全員による署名押印が再度必要になるようなことにもなりかねません。そこで、司法書士に相続登記をご依頼いただく場合、司法書士が作成した遺産分割協議書に、相続人全員の署名押印をいただくのが通常です。
遺産分割協議書の作成(目次)
1. 遺産分割協議書の作り方(記載例)
2. 遺産分割協議書についてのよくある質問
2-1.印鑑証明書の期限
2-2.捨て印(訂正印)を押すべきか
2-3.相続人中に未成年者がいる場合(特別代理人の選任)
2-4.相続人中に海外在住者がいる場合の印鑑証明書(サイン証明)
1. 遺産分割協議書の作り方(記載例)
当事務所へ相続登記をご依頼をいただく場合には、司法書士が遺産分割協議書を作成するのが通常ですが、ご参考までに遺産分割協議書の記載例を掲載します。
もし、ご自身で作成される場合は、下記の「遺産分割協議書(例)」および注意事項をよくご覧になって間違いの無いようにしてください。遺産分割協議書が2ページ以上になる場合、各ページに割印が必要です。
作成した遺産分割協議書は、署名押印する前にお持ちくだされば司法書士が内容を確認いたします。二度手間になることを防ぐためにも、事前に専門家によるチェックを受けることをお勧めします。
遺産分割協議書(例)
最後の本籍 千葉県松戸市松戸○番地の○ (注1)
最後の住所 千葉県松戸市松戸○番地の○
被相続人 甲野 太郎 (平成 年 月 日亡)
本籍 千葉県柏市柏1丁目○番
住所 千葉県柏市柏1丁目○番○号
相続人 甲野 一郎 (平成 年 月 日生)
本籍 千葉県流山市流山1丁目○番地
住所 千葉県流山市流山1丁目○番地
相続人 乙野 花子 (平成 年 月 日生)
上記共同相続人間において、遺産の分割について協議をした結果、下記の通り決定した。
記
1.相続人甲野一郎が取得する相続財産
所在 松戸市○○一丁目 (注2)
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
所在 松戸市○○一丁目○○番地○
家屋番号 ○○番○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階○○.○○㎡ 2階○○.○○㎡
本決定を確認するため、上記協議者は各自署名し押印する。
平成○年○月○日
上記相続人 甲野 花子 (印) (注3)
上記相続人 甲野 一郎 (印)
(注1) 本籍地は戸籍(除籍)謄本、住所は住民票(除票)の通り正確に記載します。
(注2) 不動産の表示は、登記簿謄本(登記事項証明書)の通り正確に記載します。
(注3) 自筆で署名し、実印で押印します。
遺産分割協議書の記載についての注意事項
被相続人・相続人の本籍や住所、また、不動産の表示(所在、地番、家屋番号など)は、全て正確に記載してください。本籍地は戸籍謄本、住所は住民票、不動産の表示は登記事項証明書(登記簿謄本)の記載と完全に一致していなければなりません。
登記事項証明書は、お手元にある古いものを使用せず、新たに取り直すようにしてください。また、固定資産評価証明書に書かれている地積は、登記事項証明書と異なる場合があります。必ず最新の登記事項証明書を使用して、その記載のとおりに作成してください。
たとえば、住所であれば、「一丁目1番地の1」と「一丁目1番1号」のように、「○番地の○」になっている場合と、「○番○号」になっている場合があります。また、「一丁目1番1号」となっているのを「一丁目1-1」のように略すのも避けてください。
不動産以外の銀行預金、株式などは下記のように記載します。とくに書き方が決まっているわけではありませんが、何を取得するのかを明確に特定する必要があります。
○○株式会社株式 ○株
○○銀行○○支店 普通預金 金○○円(平成○○年○○月○○日現在)
2. 遺産分割協議書についてのよくある質問
2-1.遺産分割協議書に付ける印鑑証明書の期限
遺産分割協議書には相続人全員が署名および実印による押印をして、印鑑証明書を添付します。
不動産の名義変更手続き(相続登記)では、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書に有効期限はありません。売買や贈与による所有権移転登記では、発行後3ヶ月以内の印鑑証明書を付ける必要がありますが、相続登記においてはそのような期限がないのです。
ただし、銀行で預金の払い戻しをする際には、3ヶ月以内の印鑑証明書が必要になるはずですし、当事務所へ相続登記のご依頼をいただいた際も、通常は相続人全員に新たに印鑑証明書をお取りいただいています。
つまり、いつ発行された印鑑証明書でも構わないわけではなく、相続登記をするまでの間に印鑑証明書の発行日から3ヶ月を少し過ぎてしまっても、法律的には問題ないとの意味だとお考えください。
2-2.遺産分割協議書に捨て印(訂正印)を押すべきか
遺産分割協議書へは、署名の後ろに実印で押印しますが、さらに用紙上部などの欄外に捨て印を押すことがあります。捨て印があれば、遺産分割協議書の内容に軽微な誤りがあった場合に訂正印とすることが可能だからです。
つまり、遺産分割協議書を作成し、相続人全員による署名押印が完了した後に間違いを発見した場合、本来であれば、間違いを修正したうえで相続人全員が訂正印を押すことになります。それが、事前に捨て印を押してあれば、その捨て印を訂正印の代わりにすることで、遺産分割協議書の訂正が可能だということです。
したがって、相続人の全員が同居していて、作成し直した遺産分割協議書へすぐに印鑑を押せるような場合には、捨て印は無くても構わないでしょう。けれども、相続人全員から何度も印鑑をもらうのが大変なのであれば、捨て印を押しておくほうが便利だといえます。
なお、捨て印を押してしまうと、勝手に遺産分割協議書の内容を書き換えられてしまうことを心配される方もいらっしゃるでしょう。たしかに、捨て印を使うことで、その書類の内容をどこまで変更できるかについては明確な規定はありません。
しかし、捨て印により訂正できるのは、住所、不動産の表示などについての些細な誤りに限られると考えるべきであり、たとえば、氏名を書き換えることで、別人に遺産を引き継がせるようなことは許されません。
ただし、そのような訂正をした遺産分割協議書であっても、書類の形式的に不備がなければ、不動産相続登記が受け付けられてしまう可能性はあります。そのような場合は、後からその遺産分割協議書が無効であるとの主張をすることになります。
2-3.相続人中に未成年者がいる場合の特別代理人選任
遺産分割協議をする際に、相続人の中に未成年者がいる場合、親権者(父母)が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加します。しかし、その親権者も未成年者とともに相続人である場合、親と子との間で利益相反することになります。
たとえば、未成年者の父が亡くなったときは、その未成年者の親権者は母一人となります。この場合、母と子はともに相続人となりますから、母が親権者として遺産分割協議を行えるとすれば、一人で全て決めてしまえることになります。
このように、未成年者とその親権者との間で利益相反が生じるときは、家庭裁判所で、その未成年のために特別代理人を選任してもらいます。そして、特別代理人が未成年者に代わって、他の相続人との間で協議を行うことになります。
なお、特別代理人に選任される人の資格についてはとくに制限はありませんが、通常は、特別代理人選任の申立人である、親権者が推薦した人が選ばれています。そのため、未成年者の、祖父母や、伯父(叔父)、伯母(叔母)が特別代理人になることが多いと思われます。
特別代理人の選任について詳しくは 特別代理人選任 のページをご覧ください。
2-4.相続人中に海外在住者がいる場合の印鑑証明書(サイン証明)
遺産分割協議書へは、相続人全員が署名および実印による押印をして、印鑑証明書を添付します。しかし、相続人が海外に住んでいて印鑑証明書の交付を受けられない場合、印鑑証明書の代わりにサイン証明(署名証明)を利用することになります。
サイン証明とは、海外に在留していて日本には住民登録をしていない方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
具体的な手続としては、遺産分割協議書を在外公館(外国にある日本国大使館、総領事館)に持参して、領事の面前で署名および拇印を押捺し、この遺産分割協議書と署名証明書を綴り合わせて割り印をします(奥書認証)。
なお、遺産分割協議書への署名は領事の面前で行う必要がありますから、事前に署名をせずに持参しなくてはなりません。
サイン証明には、上記と合わせて2種類の方法があります。
- 持参書類(遺産分割協議書)とサイン証明を綴り合わせて割印し、一体の書類としたものに奥書認証するもの
- 申請者の署名を単独で証明するもの(サイン証明のみを単独で発行)
登記申請に使う場合は、原則として1の方法によるサイン証明を使用します。この書式は下記のようになります。
形式1:貼付
証明書
以下身分事項等記載欄の者は、本職の面前で貼付書類に署名(及び拇印を押捺)したことを証明します。
身分事項等記載欄
氏名:
生年月日( 明・大・昭・平 ) 年 月 日:
日本旅券番号:
備考:
※氏名の漢字等綴りは申請人の申告に基づく場合があります。
証第 DQ11-0000号
平成 年 月 日
在ロンドン日本国総領事館
総領事 ○ ○ ○ ○ (公印)
なお、印鑑証明書を取り扱っている在外公館(外国にある日本国大使館、総領事館)もあるので、その場合は、海外に在住していても印鑑証明書を使用することもできます。その他、サイン証明(署名証明)については、外務省の各種証明・申請手続きガイドも参考にしてください。