相続人中に行方不明者がいるとき、その人を除外して遺産分割協議をすることはできません。行方不明(不在者)であっても、もちろん相続権はあるからです。この場合、家庭裁判所へ「不在者の財産管理人選任申立」をする必要があります(民法25条)。
不在者とは「それまでの住所(または居所を去って)容易に帰ってくる見込みのない者のこと」をいいます。したがって、生死不明であることは要件ではありません。また、仮に生死不明だったとしても失踪宣告を受けるまでは「不在者」であることになります。
具体的な手続としては、はじめに「不在者の財産管理人選任申立」をします。続いて、選任された相続財産管理人が「不在者の財産管理人の権限外行為許可の申立」をすることになります。遺産分割は不在者財産管理人の権限を越える行為であるため、家庭裁判所の許可が必要だからです(民法28条)。
なお、たんに「どこに住んでいるか分からない」というのは不在者ではありません。この場合、住民票や戸籍附票などを取得することで現在の住所を調べて、その相続人に連絡を取り遺産分割協議への参加を求めることになります。
また、行方不明者がいても、法定相続分通りに共有名義で登記することは可能です。法定相続分での登記の場合、共同相続人中の1人から登記申請をすることができるからです(「遺産分割協議書は法定相続分の登記には不要です」を参照)。しかし、それでは行方不明者の持分について、処分(売却や担保の設定)をすることができないので、通常は意味がないと思われます。
参考条文
民法 第25条(不在者の財産の管理)
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
民法第28条(管理人の権限)
管理人は、民法第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法 第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為