以前、高校生を対象としたセミナーでお話しをした際の原稿です。そのまま読んでも面白くないかと思いますが、記録として掲載します。なお、高校生向けですから、分かりやすくするため法律的には正確でない記述もあることをお断りしておきます。

司法書士は法律家である。

1.法律家の仕事とは

法律家とは「法律についての専門家、プロフェッショナル」のこと。
法律家といえば一般には弁護士を思い浮かべるだろうが、司法書士も法律家の一員である。

弁護士と司法書士の違いは?

弁護士  法律に関する仕事は(基本的に)全て出来る
司法書士 法律に関する仕事のうちの一部(簡易裁判所での裁判、登記など)

ただし、何でもやっていいのと、実際にできるのは違う。
それに、一部分とはいっても、全ての分野に精通するのは無理なくらい幅広い。
司法書士は、弁護士が扱わない特殊な分野の仕事が中心。

2.司法書士の具体的な仕事内容

主なものは2つ。裁判に関するものと、登記に関するもの。

2-1.裁判

裁判というと、弁護士の仕事だと思うかもしれないが、司法書士もできる。

ただし、司法書士の場合は、簡易裁判所での裁判が中心。簡易裁判所で扱えるのは、請求額が140万円までだから、主に個人の日常生活で起こるトラブルを解決するための裁判をしている。

裁判の中でも、基本的に民事裁判に関するもののみ。
→ 罪を犯した容疑で逮捕された人の弁護ができるのは、弁護士だけ。

○民事裁判  人と人(会社等の法人も含む)との争いに関する裁判
       ・貸した金を返せ
       ・給料を払え
       ・慰謝料を払え
○刑事裁判  罪を犯した人を、国が罰するための裁判
       ・物を盗んだ
       ・他人に怪我をさせた

依頼者の代理人として、法廷に立つこともある。

(注) 法人 法律によって、人と同じように、人格があるものと扱われるもの

2-1.登記

登記とは「法律に定められた一定の事柄を帳簿や台帳に記載すること」をいう

主な登記 不動産登記、商業登記

不動産とは、土地や、建物のこと。

不動産登記とは「国が管理している登記簿というものに、その土地の所有者が誰か?などという情報を記録しておくこと」をいう。

なぜ、登記をするのか?
その不動産は自分のものだと、他人に対して言えるようにするため。

土地には名前が書いておいても仕方ない。そこで、国が管理しているコンピューター(データベース)登録しておいてもらう。

なぜ専門家に頼むのか?
「専門知識が必要であり、多くの人の利害関係が絡んでいるから」

ボールペンの売買 買い主 ボールペンを受け取る
         売り主 お金を払う。
         同時に行えばよい。

土地の場合は、土地を渡すわけにはいかない。そこで、不動産登記をすることで、自分の名義に変えてもらう。

土地の売買 買主 土地を買ったら、名義を自分のものにしたい。
      売主 名義を変えるなら、ちゃんとお金を払って欲しい。

利害の反する当事者の間に立って、取引が正常に行われるように確認する

・売り主・買い主ともに、間違いなく本人であるか?
・双方が、騙されているのではなく、自分の意志で取引きしているか?
・名義を変更するために必要な書類が揃っているか。その書類は本物か?
・支払うべきお金はちゃんとあるか。

そういうことを司法書士が確認することで、はじめて取引きが成立する

□相談されるものはどんな内容のものがあるか

○日常生活のトラブル
・貸したお金を約束どおり返してくれない。
・悪質商法にだまされた。
・ネットオークションで落札した商品が送られてこない
・アパートを退去したのに、敷金を返してくれない。
○労働に関するトラブル
・突然、解雇された。
・退職金を払ってくれない。

このように個人の生活に関するトラブルについての相談が多いが、人々が社会生活を送るうえで直面する法律問題は全て対象になるから、相談内容は非常に幅広い。

他にも、登記についてももちろん相談される。

○登記に関する相談
・新たに会社を作りたい
・不動産の名義変更をしたい(売買、贈与、相続)

□法律家になるには

○弁護士、裁判官、検察官
法科大学院(ロースクール)を卒業後、司法試験に合格する。
その後、1年間の司法修習(研修のようなもの)を受ける。

ロースクールに入るにも受験が必要。
司法試験の合格率が高いところは試験も難しい。
期間は、3年、または2年。法学部出身者は2年。
大学を出た後に、大学院に行くのだからお金もかかる。

司法試験の合格率 平成22年 25.4% 平成21年 27.6% 
平成20年 33.0% 平成19年 40.2%

○司法書士試験
司法書士試験という国家試験に合格すること。
受験資格無し。合格後、すぐに開業することも可能。

試験は年に1回で、合格率は3%弱。平成21年は2.8%

一般に最低でも2,000時間の勉強が必要と言われているので、勉強に専念できる環境であれば、1年で合格することも不可能ではない。
ただし、合格者の大多数は勉強に専念している人でも3年位、仕事をしながらだと5,6年はかかっている人が多い。

何回受けても合格せず、諦める人も多い。

司法試験、司法書士試験、どちらを選ぶか?

どちらも大変には違いないが、若いうちから目指すなら司法試験にすべきだろう。そのほうが、仕事の選択の幅が広がる。

司法書士試験は、そもそもは学校へ長期間に渡って通ったり、研修を受けている時間的余裕がない社会人が受けるべきものだった。

(質問と回答)
1.仕事のやりがいを教えてください

依頼者と直接向かい合ってする仕事であり、その人が、自分自身ではどうすることもできないトラブル解決の手助けをするのだから、感謝されることも多い。

その反面、非常に責任は重い。専門家として仕事をする以上、ミスは許されないのでいつも緊張感がある

では、専門家の仕事とはどういうものか?

医 者 体の具合が悪い人を、手術や薬を出すことによって助ける
法律家 トラブルに巻き込まれた人を、法律によって助ける

人にとって、体の具合が悪いのも一大事だが、社会生活を送っていくうえでトラブルに巻き込まれるのも同じように一大事。

責任は非常に重い。人の財産の行方を左右することもあるし、生きるか死ぬかの瀬戸際の人から相談を受けることもある。そのぶん、感謝されることも多い。

2.法律に携わる仕事をしたいと考えているのですが、今から心がけておくことはありますか。

司法関係に進みたいなら、大学の法学部に入学するべき。であれば、まずは受験勉強をがんばる。

それ以外には、そもそもスポーツ選手になりたいとか、長い修行が必要な職人を目指すとかで無い限り、高校生のうちから、直接、仕事に関係することをする必要はない。

法律の仕事では、文章を読んで理解すること。また、文章によって自分の考えを正確に伝えることが必要。

文章を読むのを苦にしているようでは難しい。今は、法律に限らず、自分が興味のあることで良いから、本を読むのを習慣にしておくべき。

もう一つ、大事なのは、自分の頭で考えること。誰かに聞いた話、テレビや新聞で言っていることが正しいとは限らない。

大切なのは、誰かに聞いた話や、マスコミ報道をそのまま鵜呑みにしないで、自分の頭で考え、想像力を働かせる訓練を積むこと。本を読む習慣を持つことも大切。

それは、仕事だけではなく、大人として社会生活を送っていくうえで、大きな力となるはず。

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